だけどこれがきっと私たちのたった一つの幸せだったんだと思う。



『隕石落下はもう免れません。残された時間を――』



大事な人と…必死に涙をこらえていたキャスターも、その言葉を紡ぐと嗚咽を漏らしていた。テレビの中の彼だって、最後くらい一緒に過ごしたい人がいるだろうに、そう思い、私は彼に同情した。
テレビでは連日、迫りくる隕石のニュースを知らせている。始まりは一週間前。速報で隕石が追突するという旨が流れた。でも大丈夫だろう、ほとんどの人が理由もなくそう思っただろう。まさかそんな事が現実で起こり得るわけない、と。だが現実はそうではなかった。世界各国の専門家が集まり難しい話をした結果、隕石は間違いなくこの日本にも影響を及ぼす。そしてそれは防ぎようがなく、さらにそれの威力は強力なもので地球は滅ぶ、その見解がニュースで流れた。私たちに残された時間はもう一日を切っていた。

「私たち死ぬんだってさ」

英士、と、ここに彼がいる事を確認するように、続けて名前を呼んだ。英士は普段と変わりのない様子でサッカーマガジンを読んでいる。そしてテレビにも私にも目を向けずそう、とだけ返事をした。

「そうって…何かやり残したことないの?」

「あるよ」

そう言って英士はやっと顔をあげた。そして雑誌を机の上に置き私の首に手を回した。冷たい英士の手に、私の体が震えた。それは今から彼になにをされるか理解したための恐怖ではない。これが彼に触れる最後となる、その事実の方が怖くて寂しくて悲しいことなんだから。

「まだの事殺してないからね」

「ふふ、何ソレ」

「だって隕石で死ぬなんて嫌でしょ?」

「うん、まあね」

私がそう笑うと英士は手の力を強めた。息苦しさを感じて眉を細める。それでも英士の顔は綺麗に目に映った。どうせ死ぬのなら、最後は愛した人に殺されたい。英士より長く生きるなんて嫌だから。私の最後を見ていてほしい。

「もしまた人間として生まれたら次は姉ちゃんになんかならないでよね」

「その時にはもっと生きやすい地球だといいなあ」

私がそういうと英士が笑う。ね、今度は堂々と手を繋いで歩きたいよね。クリスマスくらい人目を気にしないでキスしたり、そうだよね。そんな普通が欲しかったよね。私は英士の手に触れる。私を見つめる英士はただ優しい笑みを浮かべていた。だから私も涙を零さないように必死に笑顔を作った。

「じゃあね、
愛してるよ、微かにそう聞こえた。

首を絞める力が強くなって、私は意識を失う。だから私は、英士がらしくもない涙を流していたことを知らなかった。





最後の幸せ


あとがき
ある日のブログでの小話を加筆修正。とまでいえない出来です。。。
2014年3月12日