指を絡ませ、逃げ出そうとするあたしの力を奪う。愛があるように切なそうに私の名前を呼んで、欲望を吐き出すあなたは本当にあたしを愛しているわけじゃない。嘘だらけの恋愛ごっこをして、寂しい心をただ満たすためにあたしたちは今日も体を重ねる。
涙が出るほど優しいキスを貰えば、あたしは絡ませた指に力を込める。今だけはあたしの結人なんだ、そう思うと涙が零れるけど、結人はそれが快感から来るものだと思い、気持ちいい?と問いかけてくる。吐息交じりの声はいやらしく耳に響いてくる。あたしはうん、気持ちいの、と返事を返す。すると結人はあたしの前髪をあげて額にキスを落とす。可愛い、が一番かわいい、そんな嘘っぱちの言葉を吐いて。
「あー、そろそろ限界…っ」
「イって、いーよ」
そう言いながらあたしもそろそろ限界が来そうで、押し寄せる快感に目を強く瞑った。だけどあたしで感じる結人の顔を見たくて、快感を堪えながら目を開ける。あたしの上にいる結人は気持ちよさそうに目を細めていた。結人は視線があうと、あたしの頬を撫でてキスをした。それは欲望のキスじゃなくて、慈しむような優しいものだった。
「っあ、もう無理…!」
結人はそういうと激しく腰を打ち付ける。今度こそあたしもその快感に負けて目を閉じる。結人、結人、と目の前の男の名前を必死に呼ぶ。好き、その言葉を飲み込む代わりに、何度も何度も名前を呼ぶ。ああ、このまま時間が止まればいいのに。今この一瞬、結人はきっとあの子よりもあたしを想ってくれているはずだから。永遠に、永遠に時間が止まればいいのに。
事が終わると、結人はベッドの淵に座って事後の処理をしていた。あたしは布団を口元までかぶってその後姿を見つめる。結局そうだ。事が終われば心の距離がとても遠く感じるようになる。さっきまでは物理的にも近い距離にいたのに、どうして今はこんなに寂しくむなしく感じるのだろう。零れそうになる涙を布団を握りしめて堪える。
「なんか飲む?」
「ん」
「持ってくるな」
結人は下着だけ吐いてキッチンに向かう。この家にはあたしの好きなものが沢山ある。飲み物だってあたしの好きなジュースがあるし、食べ物だってあたしの好きな冷食を買っておいてくれている。ロータンスの上には、結人があたしの頬にキスをする写真が飾られている。それでもあたしは一番じゃない事を知っている。
「ほい」
冷えた缶ジュースを受け取る。それを開けて口に入れると、甘さが口内に広がる。どうしてだろう。堪えていた涙があふれ出す。でもそれはいつもの事で、結人は困ったように笑ってあたしを抱き寄せ髪の毛を撫でてくれる。
「泣くなって」
からかうようにそういう結人。ズルい男。でもそんな事知ってたし、ズルいのはお互い様で、あたしだけが可哀想な女をぶるのは違う。だけど引き返せないほど結人が好きで、好きで好きで。どうしようもない。結人の心を占めるものがあたしだけであってほしかった。
「大好きなちゃんが泣いてたらかなしー」
いつものように笑いながらそう結人は言った。あたしは堪え切れない嗚咽を漏らすことしか出来なかった。
「俺の事ほんっとーに好きだね」
「好きじゃない」
好きじゃない、呪文のように繰り返した。結人はハハっと笑うと、俺は好きと返す。本当に嘘つき。結人の心にはずーっとずっと、あの人がいるじゃない。だけどそんな野暮な事は言わない。もう結人とあの人は終わってるんだから。そしてあたしは弱っていた結人の心の隙間を狙って体で結人を繋ぎとめた。最初にズルいことをしたのはあたしで、結人の言葉を信じられないのも種をまいたあたしの責任。
「俺は好きだよ。嘘じゃねえから」
真剣なその声も、あたしには響かない。だってあたし知ってるから。結人があの人との思い出の物をクローゼットの中に全部いれて持っている事。結人大好きだよ、なんて書かれた手紙さえ捨てずに持っている事、知ってるんだから。
「あたしは好きになんてならない」
嘘つきはどっち?「いなくならない?」「当たり前じゃん」「…嘘つき」
あとがき
普通のカップルなら元の思い出の品があっても喧嘩とかそんなんでも済むんだろうけど、自分に負い目があるため何が何でも信じられないそんなヒロイン。
2014年3月13日
普通のカップルなら元の思い出の品があっても喧嘩とかそんなんでも済むんだろうけど、自分に負い目があるため何が何でも信じられないそんなヒロイン。
2014年3月13日