日陰に咲く花
君との帰り道。
初めて郭君と話をしてから2週間が経った。衣裳を作る上で郭君の背丈の寸法を測ったりもしなければいけなかったので、あれからも時々一緒に帰ったりしていた。そして体育祭まで残り1週間に迫っていた。応援団旗も衣裳も出来あがり、今までは仮衣裳を使っていたけれど今では出来あがったものを使用している。自分が作成に関わった物がこうして使われるというのは嬉しかった。
「さん、今日一緒に帰らない?」
「あ、はい!」
それは郭君がどうしてもサッカーの練習に行かなければいけない時の習慣になっていた。応援団の練習がある時は時間が合わないけれど、サッカーの練習の時はいつも駅まで一緒に帰っていた。下校中の生徒たちを見ていると、もうすぐこんな日常もなくなるんだな、と少しだけ寂しい気持ちになった。体育祭が終われば3年生はまた受験勉強の日々へと戻る。それは今までよりも本格的になるし、上を狙える人はまた更に勉強に励むのだ。
「そう言えばさんって高校決めてるの?」
駅までの道のり、2週間前とは違って風が冷たくなっていた。風が木々を揺らし、それに乗って葉っぱが落ちてくる。この季節はなんだか寂しくなる。
「はい。郭君は?」
「俺も決めてるよ。さんはどこ?」
「私は桜水高校です」
「え、本当に?俺もだよ」
「わ、そうなんだ!郭君ならもっと上狙うかと思ってました」
実際郭君はテストでも上から数えた方が早い。いつも掲示板に貼られる結果の上位には郭英士の名前があるくらいだ。
「俺サッカーがあるから勉強はほどほどでいいんだよね。クラブにも所属してるしね。サッカー一番でいきたいんだ」
「そうなんですね。郭君はサッカーが本当に好きなんだね」
「サッカーしてる時が一番楽しいからね。そうだ。よかったら今度試合見に来ない?」
「試合ですか?え、行ってもいいんですか?」
「構わないよ。さんの事友達に話したら連れてこいってうるさいんだよ。さんが迷惑じゃなかったら来てよ」
「行きます!私自分が運動音痴だから、観戦するのが大好きなんですよ」
「へえ。それならよかった。10月14日の日曜日だから予定空けててね」
「うん!」
本当に楽しみだった。郭君と話していると自分らしくいれる。少し大人びた彼の子供の部分は彼を身近に感じさせてくれた。いつも透かしたように笑う彼も、サッカーの話になると同級生の顔になる。私はそんな彼と話している事が本当に楽しかった。ただ、ただそれだけでよかったんだ。
一緒に歩いたこの道も、今ではかなり変わったね。あそこには公園があったのにマンションになってる、そんな話をするのも大人になった証拠なのかな。