慌ただしい日々は終わりを告げ、日常が戻って来た。と言っても周りはまた勉強一色になるのだけど。



日陰に咲く花
幼さ故の。




彼女は俺にとって風のような人だ。存在を煩わしく感じる事がないという点で、俺はそう思っている。
元々俺は、学校での人付き合いに積極的になれなかった。面倒とかじゃなく、サッカーでつるんでる奴らがいるから、どうしても学校の人間は疎かになってしまう。決して嫌いだとかそんな感情を懐いているわけじゃない。ただ女子はミーハーな態度で接してくるから関わりたいとは思えなかった。それこそ面倒だと感じた。でも彼女は違った。最初に話しかけた切欠は純粋な興味で、彼女は文化祭とかでも衣裳を作ったり展示したりしている。俺はその作品の一ファンだった。繊細に作り上げられるそれを作ったのがどんな人間なのかが知りたかったのだ。話してみると初めての感情を懐いた。それは恋愛感情とかではなく、女子に対して初めていい子だと思えたのだ。サッカーである程度有名になってしまうと、同じ学校の女子たちはこっちの気持ちなんてお構いなしにちやほやしてくる。そして、俺という人間のイメージを勝手に作り上げるのだ。だけど彼女が俺に対するイメージは真っ白な物だった。だからか素の自分で話せた。時折彼女は俺に対して遠慮したように言葉を探す。だけどそんな思慮深いところも好きだったりする。それはあくまでも友達として、だけど。
体育祭も終わり、彼女とはあまり話す事がなかった。約束の事は覚えているだろうかと思ったが、試合の前日に明日はどこに行けばいいのかとメールが着た。ホッとしたような気持ちで秋桜グラウンドに10時で、と返事を返した。それに対して彼女は珍しく、絵文字つきで了解の返事をくれた。女子にしては珍しいけど、彼女は普段絵文字も顔文字もつけない。そういう飾り気のないところもメールをしていて疲れたりしない理由だ。
俺は電気を消しベッドに入る。頭の中で明日の試合のシミュレーションをする。明日は高校生のチームと東京選抜の練習試合だ。久々に会う奴らとの再会が少しだけ、楽しみだ。





集合場所に着くと、早速結人が今日は楽しみだなー!な、一馬!と嬉しそうにしている。なにを勘違いしているのか、結人は俺が彼女を好きだと思っている。いくら違うと言っても、照れるなよー!と笑われるのだ。グラウンドに向かうバスの中でも、結人はずっと彼女について聞いてきた。時折一馬が結人声でけえよ!と言っていたが、結人はお構いなしだった。
グラウンドに着くと、高校生チームは既にいた。軽く挨拶をし、俺たちは控室に向かう。その途中グラウンドを囲むようにある観客席を見る。彼女は真ん中辺りの後ろの席の方に座っていた。彼女は俺に気付くと小さく手を振っていた。俺も手をあげる。するとやっぱり結人がにやにやしながらへーへーと彼女を見ていた。

「結人、本当に違うから」

「えーなにがだよー」

控室に入り、ロッカーに荷物を詰め込む。狭い控室の中では、色んな話が飛び交う。彼女が、友達が、親が、と言った話から中学生ならではの下世話な話まで。

「だからさ、さんは彼女でもないしただの友達」

「でも英士が仲良くなる子だろ?珍しいし少しは好きなんじゃねえの?」

「俺もそれは思った」

と、そこで今までは結人に対してうるさいと言っていた一馬が会話に入った。ユニフォームに腕を通しながらため息を吐く。

「なんでそうやってすぐ男女の関係に結びつけたがるの?」

「や、そういうわけじゃねえよ?ただ英士が女子と仲良くするなんて想像出来ねえしさ」

「今まで気が合う子がいなかったってだけの話でしょ。彼女に対しては好きとかじゃなくてさ…なんていうか居心地がいいんだよ」

「それは恋愛じゃねえのか?」

またそこで一馬が呟くように言う。俺はすぐに違うよ、と返事を返した。

「だって彼女に対してキスしたいとか抱きしめたいとか思わないし」

「えー、まじかよ。俺英士に好きな奴が出来たって姉ちゃんにも言っちまったよ」

全く結人は…と心の中で呟く。きっと次に結人の家に行くと、あのお姉さんたちにあれこれ聞かれるのだろう。それを想像するとまたため息がこぼれる。

「本当に彼女といると居心地がいいんだ」

彼女は色で例えると薄いオレンジだと思う。太陽のように眩しくきついものではなく、酸素のように見えないものでもない。柔らかなそう、日陰にさす日差しのような優しいもの。

「じゃあ先に行ってるね」

俺は二人にそう告げて控室を出る。少しの待ち時間、彼女との会話を楽しもうと思ったのだ。

「俺、英士は絶対いつかあの子を好きになると思う」

「お、鈍感かじゅまでも思う?」

「(かじゅまって…)おう」

「当人が一番鈍感だよなあ。英士のあんな優しい顔見た事ねえよな」

「確かにな」

俺が出て行った後、2人がこんな会話をしていたなんて知る由もなかった。だって俺が言った言葉は全部本心だから。この先彼女に対して恋愛感情を懐かない、とは断言出来ない。だけど今の俺にとって、彼女はただの友人だ。



、覚えてる?この日俺は今までにないほど張り切ってたんだよね。2人が言うように俺はどうしようもないくらいの鈍感野郎だった。それで何度君を傷付けたか。ごめんね。
あとがき。
初めての英士視点。
人生ってタイミングが大事だと思う。恋愛においても。
2012年10月4日