フリーキックのチャンス、それを蹴るのは郭君かもう一人の知らない子のどちらかだ。蹴ったのは郭君だった。それが決まった時、郭君は両手を太陽に掲げ喜んでいた。知らない一面を知る度、なぜか胸がざわめき立った。



日陰に咲く花ただ、知りたいと思う。





試合終了のホイッスルがグラウンドに響き渡った。結果は二対一で郭君たちのチームの勝利だった。試合が始まる前に郭君から一緒に帰ろうとメールが着てたので、私はグラウンドの入り口で彼を待っていた。自分がプレーをしたわけじゃないのに、いまだに胸がドキドキとうるさくなっている。こんなに凄い事があるんだ、こんなに興奮することがあるんだって驚いた。相手の人たちが攻めてくると郭君頑張れ!と応援したし、郭君のチームの人たちが攻めているといけいけー!と思った。それに郭君が点を決めた時は本当に本当に嬉しかったんだ。
しばらく待っていると、郭君は友達を連れてやってきた。私は慌てて頭を下げる。顔をあげると目つきの鋭い男の子と癖っ毛の男の子がいた。その他にも沢山の人たちがいて、郭のカノジョだってーと言っているのが聞こえた。私はつい違います!と言おうとしたがその前に郭君がごめんね、勘違いしてるんだと言ってくれた。だから私は黙ってその声を聞いていた。

ちゃんてゆーんだろ?俺ゆーと!人を結ぶって書いて結人な!んで、こっちが一馬!ヘタレな一馬!よろしく!」

そう早口で言った彼は癖っ毛の男の子だった。あまりに元気のいい彼に言葉を失う。すると郭君が横から申し訳なさそうにごめんねと言った。

「彼女がさん。とりあえず結人は黙ってて」

私の代わりにそう言ってくれた郭君。若菜君はそれに対してなんでだよー!と繰り返していた。郭君はなんだかいつもと雰囲気が違った。若菜君とお前がうるさいからでしょ、とか、なんだってー!とか…そんな風に言い合っている彼は、本当に同世代の男の子、って感じだった。

「ヘタレじゃないけど俺が一馬。よろしくな」

さっきまで黙っていたもう一人の男の子がそう言った。郭君と若菜君は何やら言い合っている。と言っても若菜君が一方的に囃し立てているという感じだけど。

「あ、はい。よろしくお願いします」

私はそう言ってもう一度頭を下げた。それを見ていたのか若菜君が大きな声で笑って、納得!と言った。なにがだろう、と思っていると、若菜君が私の頭を撫でる。

「本当英士が気に入る子って感じだな!うん、なんか俺も気に入った!これから仲良くしような!」

男の子の大きな笑い声は嫌いだった。私に向けられるそれは、今まで蔑むようなものだったから。だけど彼の笑みは、こっちまで温かくなるようなそんな笑みだった。私も自然とつられて笑っていた。

「はいはい、もういいでしょ。お前ら2人で帰ってよ」

「えーなんでだよ!いいじゃん、一緒帰ろうぜ」

「うん、私も気にしないよ?」

郭君は大きなため息を零す。私はなにか気に障る事を言ってしまったのだろうか。そう思うと胸にチクリと針が刺さるような痛みを感じた。

「俺が気にするの」

「ほら、結人かえんぞ。邪魔すんなって」

そう言ったのは真田君だった。邪魔だなんて思ってないけど、若菜君も分かったよーと拗ねたように言った。

「ちぇっ。ちゃん今度遊ぼうな!」

「あ、はい!」

さん、行こう」

郭君はそう言うと私の腕を掴んで歩き出した。後ろから若菜君がばいばい!と言っているのが聞こえる。私はなんとか振りかえって小さく頭を下げた。郭君の腕を握る力が強くて、私はずっと彼になにか悪い事をしてしまったのか、と考えていた。沈黙が続く中、帰り道を歩く。そのまま長い時が流れたように感じた。しばらくして郭君が足をとめて腕を離してくれた。彼は困ったように眉を下げていた。

「ごめんね、さん」

「なにがですか?私がなにかしちゃったから怒ってるんだよね?」

「え、違うよ?」

「そうなの?よかった…嫌われちゃったかって思ったから」

「ううん。そんなことないよ。なんだろうね、」

その後に言葉が続いたけれど、小さな声でうまく聞き取ることが出来なかった。なんて言ったの?と言うと、郭君はなんでもないよと笑った。

「せっかくだしこの後ご飯でも行かない?」

「うん、是非!」

「あ、でも…今日俺頑張ったからさんの奢りね?」

「ちょ、ちょっと待って下さい!」

そう言われて私は鞄からお財布を出す。今日はそんなにお金が入っていないはずだ。お小遣い前だから手持ちは残りわずかだったはず。
お財布の中身は2000円あるかないかだった。

「はは、さんはやっぱり面白いね」

慌てる私を見て郭君は声を漏らして笑った。

「女の子に奢らせるわけないでしょ」

なにがおもしろいのか、郭君はまだ笑い続けている。私は恥ずかしくなって顔を下に向けた。

「あ、ごめん。怒った?」

「怒ってないです。私こそごめんなさい。冗談ってわかんなくて」

「なに言ってるの?そういうところがおもしろいんでしょ」

「そうなの?」

「そうだよ。女子って奢って貰うのが当たり前みたいに思ってる子多いでしょ。だからさんみたいな子、」

そこまで言って郭君は言葉を止めた。私はさっきのようになんて言ったの?と返したけれど、郭君はさんはおもしろいって事だよ、と誤魔化すように笑った。
あとがき。
この子は友達、この子は恋愛感情という明確な区切りってなんでしょう。
恋愛って理屈じゃないから七瀬には答えを出せない。
2012年10月23日