日陰に咲く花
君と彼女。
元々彼女との接点は体育祭で話したことからだった。だからそれが終われば特別会話をすることも減っていった。時々メールで近況を話したり(受験勉強についてだけど)だけだった。そんな風に時間が流れていくと、あの日彼女を意識した事も徐々に記憶から消えていった。そんな普通の毎日を送っていた時彼女から、週末に私の友達と三人で勉強会をしないか?と連絡が着た。彼女が言っている日は特に予定もなく、俺はいいよ、とだけ返事を返した。
勉強会は彼女の家で行うらしく、母にそれを伝えるとまあ大変!ケーキ買って行きなさいよ!と、予定はまだ先なのに3000円も渡された。とりあえずあまったお金でサッカーマガジンでも買おうと思い、返事だけ返して財布にそれを直した。
約束の日、待ちあわせは駅に10時だった。俺は9時に家を出て、近所にある母のお気に入りの店でケーキと焼き菓子を買った。途中でコンビニに寄って、さっきのあまりのお金でサッカーマガジンを購入した。それを行きの電車に乗り込んでお気に入りの歌をipodで掛けながら読む。
5曲目の歌が流れた時、電車のアナウンスが待ちあわせの駅に着いた事を知らせた。俺はipodと本を鞄に直す。電車を降りて駅の入り口に合った自動販売機の近くに腕時計に目をやる。時間は9時53分だった。しばらく待っていると、前から女子2人が足早にやってきた。一人はさんで、もう一人は初めて会う彼女の友人。さんは俺の目の前に来るなり、遅れてごめんなさいと頭を下げた。横にいた彼女はあ、ごめんなさいと合わせるように頭を下げた。
「気にしないで。まだ10時5分くらいでしょ」
「そうだよねー!もうほんっとこの子って堅いとこっていうか生真面目な子で!」
あはは!と大きな声をあげて笑う彼女。横にいるさんははあ、と聞こえるようにため息を吐いて、2人で顔を見合わせて笑っていた。
さんとは正反対の子だと感じた。そして自分が苦手とするタイプの子だと思った。
「あ、あたしはね。今日はわざわざありがとう。最近勉強に行き詰っちゃって…なかなか成績があがんないんだよね」
「そう。皆でやればなんとかなるでしょ」
多分、そう心の中で付け足した。
「郭君、本当にありがとう。私も凄く助かるよ」
「本当気にしないで。それよりこれ。母さんから」
そう言って地元の店で買ってきたケーキを彼女に渡す。彼女は途端に嬉しそうに顔を緩めた。
「この店、私すっごい好きなんです!わー、すごく嬉しい。うちの親も喜ぶよ!」
彼女はありがとうと言ってケーキの入った箱と焼き菓子の入った袋を手に取った。
「ならよかった。なにがいいか分からなかったから適当に選んだけど」
「私ここのならなんでも好きなの!」
「そうそう。この前なんて全種類一個ずつ買って帰ってたもんね」
「ちゃん!それ内緒って言ったじゃん!」
さんは学校で見せた事のない笑顔でさんと言い合いをしていた。今までどこか壁を感じていたのに、さんの前では年相応の女の子だった。体育祭以来結構話すようになったのに、彼女はいつも一線を引いたように俺と会話をする。だけど目の前で話す2人はどこにでもいるようなただの女子だった。そう、教室の中で騒いでいる彼女たちと変わらない、中3の女子だった。なぜだか微笑ましい気分になってつい笑うと、さんは恥ずかしそうに言い合っていた口を閉じた。
「ごめん、つい面白くて。さんって本当意外性があるよね」
「人見知り激しいからねー。あたしも最初はこんな風に言い合ったりなかったもんね」
「へえ…そんな感じは確かにするね」
「もう!私の話はいいから!もう家行こう!今日は勉強会です!」
そう言ってさんは俺たちに背を向けて歩き出す。彼女の耳が赤く染まっているのを見て、もう一度笑ってしまいそうになるのを必死に堪えた。
先に歩いていくさんにさんは待ってよーと笑いながら追いかけて行く。そして振り返った山田さんはやっぱり見たこともないような笑みを浮かべて嬉しそうにまた会話を始めていた。
教室の忙しい声は癪に障るのに、なぜだか彼女の笑い声は聞いていたいと思った。
「2人とも待ってよ」
俺の声に2人は声を合わせて笑うと顔を見合わせて走りだした。俺はその後ろを追う。ただこうしているだけで純粋に楽しいと思えた日々。なぜ人は人に恋をするのだろう。恋を知らなければ、その痛みも知らなくて済んだのだろうか。
あとがき。
なんでこうちまちまと書いてしまうんだろう。
一話一話もう少し長く書いた方がいいよ、ね…orz
2012年12月5日
なんでこうちまちまと書いてしまうんだろう。
一話一話もう少し長く書いた方がいいよ、ね…orz
2012年12月5日