郭君とはずっといい友人でいれるような気がしていたんだ。それなのにのに、
日陰に咲く花
カウントダウンの鳴る音。
家に着くとさんのお母さんが出迎えてくれる。さんは仲が良いらしく、親父さんの方と話し込んでいた。だけど時々鋭い親父さんの視線を感じて、俺は苦笑いを浮かべた。
「いらっしゃい。よくから話は聞いてるわー」
あの人、が男の子連れてくるの初めてで…ごめんなさいね。
お母さんは小さな声でそう続けた。俺は苦笑いを浮かべつつもいえ、と返事を返した。
「お母さん、これ郭君から頂いたの。後で出してくれる?」
「あら、あらあらあら!これってこの前の?」
「そうそう!お母さんも気にいってたお店の!」
「まあ!郭君ありがとうね!」
「いえ、これは母からなので。一応多めに買ってきたので、お母さんたちも是非食べて下さい」
「あら、気を遣わせちゃったみたいで申し訳ないわ〜。後でお礼のお電話したいんだけどいいかしら?」
「あ、はい。なんだかこちらこそ申し訳ないです」
「やだ、いいのよ!じゃあ電話番号教えて頂いてもいいかしら?」
「はい」
そう言って俺は携帯を取り出す。今ではもっぱらメールでのやり取りで、家電の番号を把握出来ていない。アドレス帳から家と出して番号をお母さんに伝える。
そう言えばこの前母さんが、女は甘いもんが好きなのよ、と言っていたのを思い出した。それは矢野さんのお母さんにも言える事らしく、本当に嬉しそうに箱を抱えていた。それを見ると、さっきのさんを思い出した。
「ちゃん、上いこー!」
「ほーい!じゃ、おじちゃんまた後で!」
「ああ、行ってらっしゃい」
さんがさんを呼ぶと、彼女は親父さんに手を振って戻って来た。俺は親父さんに小さく頭を下げた。親父さんは複雑そうに笑みを浮かべてこんにちは、と言ってくれた。俺の事が気に入らない、とかそんなんではなく、大事な娘が男を連れて来たというのがあまりにも衝撃的だったようだ。
そしてさんのお母さんは早速俺の家に電話を掛けているようだった。
俺とさんはなぜか先に行ったさんの後を追うように階段を昇る。
「はー、の部屋久々だー」
さんの部屋に入ると、さんは一番にベッドに寄りかかって座った。そのベッドの頭側にはテディベアの人形が二体置かれていて、壁にはコルクボードがかかっていて、それにはさんとの写真が飾られていた。
本当に仲がいいのだろう。その写真のさんは、学校にいる時よりも生き生きとした笑みを浮かべていた。
「郭君、これどうぞ」
部屋を見渡す俺に気恥かしそうな顔をしたさんがクッションを貸してくれた。そして、恥ずかしいから…と気まずそうに言った。なんとなく俺はそれが面白くて声を抑えて笑うと、彼女は顔を真っ赤にした。それをさんがニヤニヤと、そう…例えるなら結人のような笑い方で見ていた。
「青い春、か」
わざとらしくさんが呟くように言うと、さんがじろっと睨んでいた。またそれが面白くて、つい笑ってしまう。さんはなんとも言えない表情でため息を吐くと、勉強机の上に置いてある参考書とノートをガラスの机に置いた。
「もう、早くしよ!時間は限られてるんだからね」
どうにか話題を変えたかったのだろう。彼女はもうシャーペンを手に取りやる気を出している。さんも渋々と鞄の中からノートとペンケースを取り出す。どうやら参考書はさんのものを使うようだ。俺もそれにならい、ペンケースとノートだけ取りだした。
その後はそれぞれが苦手な教科と得意の教科で分けて教え合った。一時間ほど経った頃、部屋のドアがノックされた。さんが部屋を開けるとお母さんが、お盆の上にケーキと紅茶、そして木で編みこまれたかごに焼き菓子をいれて持ってきてくれた。
「どーう?勉強の方は捗ってる?」
「うん」
「じゃあそれ頂いた後おりてらっしゃい。ご飯の用意しとくから」
「ありがとう。キリがいいところで行くね」
「わざわざすみません」
「やだ、いいのよ!ちゃんも食べるでしょ?」
「はーい、いただきまーす!ところでお昼はなに?」
さっきまで疲れた、きついと頻繁に愚痴っていた彼女はどこへやら。ご飯の話になると背筋を伸ばして、いや…体を乗り出してお母さんと話をしている。
「オムライスよ〜。ちゃん好きって言ってたから昨日のうちに材料買って来てたの」
「わー、おばさんありがとう!よーし、がんばっちゃお!」
「ふふ、すぐ食べられるようにしとくわね」
お母さんは頑張ってね、と言うと部屋のドアを閉めた。その後は答え合わせの時間にして、昼ご飯を食べる為に下に降りた。さっきとは違って親父さんも俺に話しかけてくれて、サッカーが好きらしくその話で盛り上がった。さんとさんはお母さんと話し、俺は親父さんと話して、としているとあっという間に時間は過ぎて行った。その後少しだけ勉強を再開して、夜ごはんもご馳走になった。さんには弟がいるらしいけど、今日は友達の家に泊まりに行っているらしく会うことはなかった。そしてその弟がサッカーをしていて、俺の事を知っているという話しを親父さんから聞いた。
「いやー、から聞いた時はまさかなって思ってたんだけどね。話してみるとやっぱりって思って。郭君は将来プロを目指すのか?」
「まだ…そんなことまでは考えてないです。周りのうまいやつら見てたら、自分ももっとうまくならないと、って思いますし」
「そうだよなあ。郭君たちのレベルだと周りも凄い選手ばっかりだろうしな」
食後の珈琲と言ってお母さんが出してくれたそれに口をつける。さんとさんは相変わらずお母さんと話をしていた。時々聞こえる内容は、どこのケーキが美味しい、と言った食べ物の事だった。
「弟さんはどこかのチームに入ってるんですか?」
「地元のチームだよ。小学校ではクラブ活動がなくてね」
「そうなんですね。でも自分の事を知って貰ってるなんて驚きました」
「私も驚いたよ。はそういうものに疎いからね。そう言えばこの前君が載っていた雑誌見たよ。高校生相手に試合したんだって?」
「はい。選抜のやつですね」
「そうそう。弟にこの話したら悔しがるだろうねー」
はっはっは、と豪快な声をあげて親父さんは笑った。それよりも、自分の載っている雑誌を持っている、それが俺は恥ずかしかった。その後も俺は親父さんとサッカーの話をしていた。時計が九時を回る頃、そろそろお開きにしようということになり、さんに頼まれてさんを駅まで送る事になった。
「じゃあ、気を付けて帰って下さいね」
「うん。お母さん、ご飯ご馳走様でした。とてもおいしかったです」
「あらー、じゃあまた来て頂戴ね!」
「そうそう。今度は弟にも会いに来てやってくれ」
お母さんに続いて親父さんも笑顔でそう言ってくれた。それをさんがまた結人のようにいやらしい笑みを浮かべてみていた。
「はい、ありがとうございます。さんまた明日ね」
「ちゃんお願いしますね」
俺がいなくても大丈夫な気がするけど。そう思ったけど口には出さずとりあえず頷いた。最後にさんとさんがまたねと手を振っていた。俺は頭を下げて玄関のドアを開ける。夜の冷たい風が体を一気に冷やしていくのが分かる。
「失礼します」
「またねー!」
俺とさんはそれぞれ挨拶を終えて外に出る。街灯が道を照らす中、俺とさんは並んで歩いていく。
「の事、よろしくね。本当にいい子だからさ」
しばらく歩いていると、ふと、彼女はそう言った。
俺には分からない2人の友情っていうのがあるんだろう。それはさんの台詞でも感じられるし、さんの柔らかな笑みを見ていても思う。
だから俺はいい子だって知ってるよ、と返した。
それはずっと変わらなかった。彼女はいつまでも健気で、そして強く優しい人だ。
あとがき。
弟君どうしようかなーと考えてましたが、後の方で出張って貰います。
出てくるのはまだまだ先。
2012年12月27日
弟君どうしようかなーと考えてましたが、後の方で出張って貰います。
出てくるのはまだまだ先。
2012年12月27日