お前みたいなやつが一番ムカつく、ふと思い出すあの子の言葉。



日陰に咲く花
大事な人だからこそ、




昔の私は馬鹿みたいに人の顔色を伺う人間だった。だけどいつからかどうせ嫌われるなら気にしない、人なんてどうでもいいや、そう思うようになったんだ。だから郭君に対しても最初はそうだった。だけど少しずつ、私は昔に戻ったように、彼に対してだけは顔色というものを伺ってしまうようになっていった。嫌われたくない、そう思ったのはちゃん以外に彼が初めてだったんだ。
男の子の家に行くというのは小学生以来の事でとても緊張した。だけど若菜君のお母さんもお姉さんも気さくな方ですぐにその緊張は解けた。挨拶を済ませて若菜君の部屋に入ると、脱ぎ散らかした洋服が散らかっていたり、漫画やゲームまでもが乱雑に置かれていた。飲み物を持ってきたお母さんがそれを見て、片付けろって言ったでしょう!と若菜君の頭に拳骨を落とした。若菜君は涙目になりながらうっせーと小さな声で言った。お母さんにもそれが聞こえたらしく、今度はさっきよりも強めの拳骨が落とされた。
郭君は毎年の事だから気にしないでね、と苦笑いを浮かべていた。そして真田君は痛そう…とボソッと呟いていた。若菜君は床に散らばったものをとりあえず…と言ってベッドの上に放り投げていた。お母さんはそれを見てため息をこぼしたけど、もうそれ以上は何も言わずに下に降りて行った。

「結人も学習しなよ。毎年お母さんもわざわざ怒らなきゃいけないのは大変でしょ」

「なんだよ、俺じゃなくて母さんに同情かよ!」

「当たり前でしょ。大体結人はいっつも部屋が汚すぎ」

「これが健全な男子中学生の部屋だ!な、一馬!」

「いや、俺もさすがにここまで汚くしねえよ」

真田君に助けを求めた若菜君は、その答えに大きなため息を吐いた。私はなんとなく申し訳ない気分になった。

「私も手伝いましょうか?」

「え、まじで?さっすが!」

と、若菜君は喜んでくれたけどそこで郭君が「甘やかしたら駄目だよ。こいつずっと甘えるから」と呆れたように言った。すると若菜君は甘えられる内が花だろ!と大きな声で抵抗していたけれど、郭君に止められたこともあって私は、若菜君にごめんねと苦笑いを浮かべた。

「とりあえず結人が片付け終わるまでトランプでもしようか」

「大富豪でいいか?」

「えー!俺はー!?」

「お前は片付けでしなきゃでしょ」

まじかよーと若菜君は大きなため息を吐く。だけど真田君も自業自得と言ってトランプを机の中から探して取っていた。郭君はそんな若菜君を無視して、ルール分かるよね?と聞いてきた。私は心の中で若菜君に謝りつつわかります、と返事を返した。それを聞いて郭君は当然のようにトランプを真田君に渡す。真田君はん、と頷いてトランプを繰った。
それは何度繰り返しても郭君が一位で上がった。三回目戦に入るころ、若菜君が終わったー!と大げさなほど大きな声で言った。私と真田君は郭君を負かす為に協力していて、やっと勝てそうな時だった。だからちょっと待ってて!と、私たちは思わず声を合わせて言った。若菜君は大きな声に驚いたのか、お、おうとたじろいだように返事を返した。
それから10分ほどが経ち、さっきまで優位に立っていたはずの私と真田君はまた結局負けてしまった。郭君は小さく笑い、俺上がりねとトランプを出した。私と真田君はもう一度顔を見合わせてため息を吐いた。

「郭君って強いんだね…」

「俺たち勝ったことねえもん。な、一馬」

片づけを終え、私たちの勝負を見ていた若菜君が言った。そして真田君が一回もな、と続けて言った。

「すごいなあ、郭君。なんかなんでもソツなくこなすイメージだよ」

「いやいやー、こう見えて英士って結構不器用なんだぜ」

「え、そんな風に見えない」

「人は見かけによらないって言うだろー?」

な、英士ー?と若菜君は意味を含んだような笑いを浮かべて郭君を見た。郭君はうるさいよと言うと散らばったトランプを片付け始めた。若菜君はそれを見て面白そうに笑った。

「そういえばちゃん夜飯は食ってくんだろ?」

「えーっと…いいんですか?」

「当たり前だろー。今日母ちゃんは姉ちゃんと出かけるって言ってたし、ピザでも頼もうぜー」

その若菜君の意見に真田君がそうしようぜと相槌を打った。郭君はさんがいいならそれでいいよ、と言ってくれた。

「じゃあジュースとか買って来ましょうか」

「まじで?じゃあちゃん頼むわ」

「一人じゃ危ねえし俺も一緒に行くぜ」

そう先に言ってくれたのは真田君だった。だけど郭君が脱いだジャケットを羽織り立ち上がると、俺が一緒に行くからお前ら待ってて、そう言った。

「おー、分かった」

真田君はなぜか驚いたような顔をして返事を返し、若菜君は頬を緩めてニヤニヤと笑っていた。私はそんな微妙な空気を不思議に思いつつ、マフラーをまいてバックを手に取る。

「なにかいるのあったら電話して」

さん、行こう、郭君は続けてそう言った。私は先に部屋を出て行く郭君の背中を追った。



「な、俺の言う通りだろ?」

「あんな英士初めて見たわ」

「でも本人は気付いてないんだからうけるよなー」

「本当な」



気付かないうちに俺を変えていく君への感情に気付くことが出来なかった。ただ他の子よりも安心出来る、そんな人だと思っていた。
あとがき。
時間が空き過ぎて違和感orz
2013年7月25日