並んで歩けることにただ幸せを感じた。



日陰に咲く花あなたのとなり




結人の家を出た後、近所のスーパーに向かった。だけどそこに着く前に見つけたコンビニに入ろうとした俺に、さんがスーパーの方が安いんだよ、と母さんみたいな事を言ってきた。俺の返事も聞かず、さんは行きましょうと歩いて行った。いつもの彼女なら自分から意見を言う事なんてほとんどない。そんな彼女に違和感を感じながら、俺は彼女の後を付いて行こうとした。その時だった。後ろから!と彼女の名前を呼ぶ男の声が聞こえた。男はコンビニの袋を手に持っていた。前を歩くさんはびくっと背中を揺らしてゆっくり振り向いた。振り向いた彼女の目は今にも泣きだしそうなものだった。俺は彼女の隣に行き、名前を呼んだ男の顔を見た。俺が彼女の連れだと思わなかったのか、一瞬そいつは驚いたような顔をした後に軽く会釈した。

「久しぶり」

男は軽く手をあげて彼女の正面へ歩いた。黙り込む彼女を見て、男は気まずそうに笑って髪の毛を触った。

「あーえっとさ。あのさ、俺ずっと謝りたくて。ごめんな」

男がそう言うと、さんは驚いたように顔をあげた。そして男の顔を見て、またすぐに視線を下におろした。俺はよく分からないこの空気に心配になって彼女を見つめる。それに気付いたのか、彼女は俺の目を力強い目で見た後、もう一度男に視線を向けた。

「ううん。今なら春田君が言ってたこと分かるから」

「そう言ってくれると救われるわ。つーか彼氏といるとこ邪魔してごめんな!」

男はそう言って俺の顔を見てすんませんと小さく頭を下げた。俺が彼氏じゃないと言おうとすると、それより先にさんが違います!と顔を赤くして否定した。男はえ?という顔をしたけど、すぐに笑った。

「お前なんか変わったな。明るくなったわ」

「ありがとう」

さんはまだ少し赤い頬を抑えてはにかむように笑った。

「じゃあ俺ツレ待たせてるし行くわ。じゃーな!」

「うん、じゃあ」

さんが返事を返すと、男は小さく手を振って背を向けた。彼女はその後姿を安心したように見つめていた。そのまま会話は途切れたまま並んで道を歩く。

「同級生なんだ」

ポツリと、息を吐き出すように彼女は言った。そこであえて友達と言わなかったことに、俺はなんとなくそれ以上聞けなくてただそうなんだ、と頷いた。

「うん」

彼女は俺にどんな言葉を望んでいたのか分からないし、きっと解ったとしてもそれ以上踏み込めなかっただろう。人の心に踏み込むことは簡単だけど、それはあまりにも無責任だと思った。そうやって俺はずっと彼女を想ったふりをして自分を守り続けていたんだと、これから何年も経って気付く。
時折冷たい風がピューと音を立てる。その度に彼女は寒いね、と巻いているマフラーを両手でつかんだ。その後彼女は、さっきまでの気まずい空気を打ち消すように他愛のない話で笑顔を作っていた。
スーパーに着くと冷え切った体が暖房で暖まっていく。彼女が籠を手に持ち何を買う?と言葉をかけてきた。俺はとりあえずお菓子でも買おうと返事を返し、彼女の持つ籠を取った。彼女は嬉しそうにはにかみながらありがとう、と言った。その時彼女の鼻が赤く染まっていて俺が思わず笑うと、彼女はなに?なに?と慌てたように言った。

さん鼻真っ赤」

笑い続ける俺にさんは笑わないで下さいと照れたように抗議の声をあげ、俺の腕を軽くたたいた。俺はごめんごめんと言いながら、やっぱりその赤く染まった鼻を見るとつい笑ってしまった。
その後適当にお菓子とジュースを籠に入れていく。段々と重たくなっていく籠に、さすがに腕が疲れ始める。さんはそれに気付いたのか、半分っこと言いながら持ちて部分の一つを俺の手から取った。傍から見ればカップルに見えるであろうその行為に、気恥ずかしさを感じながらもありがとうと言った。レジに行くまでに感じた周りの視線もどこか優しく感じた。
商品をテキパキ選んでいく彼女の後ろ姿を見ながら、ずっとこんな風に近くにいられる存在になりたいとふと思った。
あとがき。
2013年11月21日